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April 26, 2014

スキージャンプ概論 (1) 競技力の要素化

うららかな春の日差しの中に身をおいていると、ソチオリンピックはもうずいぶん前のことのように思えてくる。いまだにゴチャゴチャとスキージャンプのことを考えているのは、(関係者以外では)自分ぐらいじゃなかろうか。頭の中に渦巻いているものを書き出してしまって、いったん収めることにしたい。

今季のスキージャンプを回顧するにあたって、葛西の足跡をたどることになった。葛西のワールドカップ初出場は88/89シーズンの札幌大会、弱冠16歳の時だった。それは、くしくもヤン・ボークレブがV字スタイルでワールドカップ総合優勝を果たしたシーズンであった。つまり、それ以来の25シーズンに渡る葛西の足跡をたどることは、V字革命以降のスキージャンプ競技の変遷を追うことだった。その間、ルールと技術トレンドの変遷とともに、流れ星のようにスターが現れ、そして消えていった。彼らは何故現れ、消えたのか。逆に葛西は何故、今になって輝きを取り戻せたのか。その疑問に答えるために「何がスキージャンパーの競技力を決めているのか」を知る必要があった。最終的には、競技力に関わる6つの要素を定義することにより、スキージャンプ競技の変遷とジャンパーの競技力の変化を、大筋において相関付けられることを見出した。

おっと、いかん、これでは自分が読んでもおかしいぐらいにコチコチに堅い文章だ。なんとかもっと普通に行こう。とにかく、スキージャンパーの力を6つの要素に分解したら、それを使ってけっこう上手く、葛西復活の謎も含めて、スキージャンプ史上のいろいろな疑問を説明できちゃったのである。その考察の過程をここに書いてみよう、ということだ。

ジャンパーのパフォーマンスをいくつかの要素に切り分けてみる

葛西という一人のジャンパーの成績の浮沈を見ただけでも、ジャンパーの競技力はさまざまな要素が絡み合って決まっていて、ジャンパー個人の努力だけでどうにかなるものでないことが感じられる。それをきちんと系統立てて深く理解するには、ジャンパーの力を要素に分解し、定義していく必要があると思った。そこで、どうやって分けるか、から考えてみることにする。

まず、今季の回顧でもさんざん書いたけど、スキージャンパーの競技力は個人の能力だけでは決まらない。チームのアシストがとても重要である。つまり、

パフォーマンス = 個人能力 + チームの能力

という分け方ができるだろう。

次に、これも何度も言っていることだけど、スキージャンプってモータースポーツに近い部分がある。それは、スキージャンパーのパフォーマンスは、ジャンパー自身の肉体の力だけでは決まらないということだ。いいマテリアルが組み合わされる必要がある。つまり、

パフォーマンス = ジャンパーの能力 + マテリアルの能力  である。

しかし、実はもう一つの分け方があるのだ。スキージャンプの飛距離を決めるのは基本的には力学だ。重力と空気抵抗だ。物理である。ジャンパーで言えば、身長、体重、筋力、骨量、柔軟性 etc.だ。しかし、その物理の規定する範囲内での最適な解-つまり最大飛距離を実現する飛び方-を導き出すのは「技術」である。

パフォーマンス = 物理 + 技術  となる。


Dissection1_3この3つの切り分け方を全部使って、スキージャンパーの競技力を分解してみよう。まず、競技力の大きさを円で表してみる。大きい方が強い、ということになるが、ここではそれはどうでもいい。

次に、それを左右真っ二つに、個人の能力(I)とチームの能力(II)に分ける。

そして、さらにそれを上下に、ジャンパーの能力(A)とマテリアルの能力(B)に分ける。

これで4つになった。
IA ジャンパーの能力
IB ジャンパーのマテリアル
IIA チームのジャンパーの能力に与える力
IIB チームのマテリアルに与える力

さらに、個人能力の二つを最後の物理(a)と技術(b)に切り分ける。

IA-a ジャンパーの物理能力
IA-b ジャンパーの技術能力
IB-a ジャンパーのマテリアル物理
IB-b ジャンパーのマテリアル技術

これで、個人能力4つ、チーム能力2つの合計6つの要素に分かれた。それぞれの意味するものは・・・

IA-a ジャンパーの物理能力

これは、ジャンパーの純粋なアスリート能力ということになる。肉体が発生する力、と言い換えてもいい。パフォーマンスの基礎となる能力だ。

IA-b ジャンパーの技術能力

これは、ジャンパーの純粋な技術能力である。センス・感覚・思考能力・正確性によって肉体が発生する力をロスなく飛距離につなげる技術の良し悪しである。細かくはスキー、サッツ、空中、着地の4要素に分けることができそうだが、最終的には不可分だと思う。

IB-a ジャンパーのマテリアル物理

文字だけを読むと、何じゃこりゃと言う感じではある。もう少し説明的にすれば、マテリアルの規定する物理とジャンパーの物理との相互作用、である。あぁ、ますますわからなくなるな、これじゃぁ。

もっと実際に即したように言い換えよう。マテリアルを規定するのは、ルールである。ジャンパーの物理を規定するのは、ジャンパーの肉体だ。だから、言い換えれば「ルールと肉体の相性」となる。これならわかりやすいかな。どのようなマテリアルやルールも、ジャンパーに合う、合わないがある。あるルールの下では、ある傾向を持つジャンパーが有利になり、ルールが変わればそれが変わる。そういう、個人とマテリアルの関係性を示す要素ということだ。

IB-b ジャンパーのマテリアル技術

これは実質上、二つの要素に分けられる。一つ目は、ジャンパー自身がマテリアルの開発や選択に直接寄与する力。もう一つは変化していくマテリアル・ルールに対応する思考の柔軟性や器用さである。マテリアル上位のピリオドにおいてはこの能力が非常に重要となる。

この4つの要素によって、ジャンパーの個人パフォーマンスが決定される。
そして、それに与えるチームの力として二つの要素を規定する。

IIA チームのジャンパーの能力に与える力

トレーニング、コンディショニング(精神面も含む)、技術指導を通じてチームが個人の能力に寄与する力。これは問題ないだろう。

IIB チームのマテリアルに与える力

テクニカルスタッフによるマテリアルのメンテナンスは大きな力を選手のパフォーマンスに与える。しかし、近年、それ以上に影響が大きいのは、チームのマテリアル開発能力である。メーカーや技術部会とのコネクションによる情報収集能力、新たなマテリアルを提案する発想力など。もしかしたら、ルール(とその解釈)を自国の選手に有利にするための政治力というのもここに含まれるかもしれない。

この6つの要素を円グラフに表わしたものを下に示す。

Elements


どうだろう。これにより、どのような要素がジャンパーのパフォーマンスに影響するかを視覚的に理解することができる。この枠組みを使い、それぞれの要素の影響力がどのように変化してきたかを考えることで、ジャンプの歴史上に起こったさまざまな出来事を説明してみよう。

(2 影響力の変化でたどるV字革命以降の25年の変遷 へ)

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