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August 20, 2013

enchantMOONに求めたいこと (追記9月1日)

立秋を過ぎて、ドイツは秋らしい雰囲気が漂い始めた。ほっとする。

紆余曲折をへてようやくenchantMOONがはるばる届いた。ボーイング787で悪者になったからか、リチウムイオンバッテリーの入ったものを航空便で郵送するのに苦労した。ドイツへの郵送はDHLが対応してくれた。

待っている間にネット上ではアーリーアダプタたちによるかなりネガティブな反応でにぎわっていたので、覚悟して使い始めた。1週間ほど使った今の段階での率直な叫びを書き残そうと思う(MoonPhase v.2.3.1)。ちなみにこのエントリーはenchantMOONを使って考えた。そう、使えてるんです。確かに巷で言われているような問題は数多くあるが、紙に考えをまとめていくのと同じ「ような」感覚で使えている。もちろん、快適かどうかというのは別のレベルの問題として残るのだが、使えるか使えないか、でいえば使える、と言っていいと思った。

でも、この製品に満足していると言えば、それは嘘になる。この評価は、製品の完成度とか、使用感のこととか、そういう表面的なレベルのことではない。ある会社にとって初めてのハードウェアが完璧なものに仕上がるなんてことはありえないのだから、問題があるのは当然。それに、このModel MOON01はある意味、コンセプトモデルだと認識している。それがこなれたタブレットのような完成度を見せたら、それは奇跡だ。

コンセプトモデルに求めたいものは、まず作り手の意思だ。そして発展の可能性。これは将来、期待できるぞ、という希望だ。私が満足できないのは、それらが製品の振る舞いから実感として感じることができないということだ。私が考えるに、問題の根本はコンセプトの不徹底にあると思う。

shi3zさんは言った。我々は紙を再発明する、と。そしてNo UIの考え方を打ち出した。
そして、User level pylamidというものを示した。彼の考えていることは明快に伝わった。

紙にもUIはある。それはペン先で触れた部分がマークされ、目に見え、そこにとどまるということ。これが紙の偉大なるUI。私は、enchantMOONはそこに立脚するというふうに、shi3zさんのメッセージを理解した。紙の素晴らしいUIに立ち位置を置いて、その上にコンピューター的な利点を、UIのレイヤーを重ねることなく、積み重ねる。enchantMOONはプログラミングによってカスタマイズできる紙である、ということだ。

私はこのコンセプトに共感したから、enchantMOONに期待した。久しぶりにプログラミングをしてみようと、待っている間にJavascriptを齧り始めた。

しかし、今enchantMOONに触れての率直な印象は、User level pylamidで言えば「Age3の段階でAge16のことをやろうとしている」というものだ。

紙を再発明する、と言ったからにはまずAge3:Drawingが紙と同等にできることが実現されなくてはならないのではないか。

enchantMOONで書いていると、少なくとも私の個体ではだいたい4秒ごとにコンマ数秒の描画の引っかかりがある。これは起動直後のまっさらな状態でのこと。多くのページを開いたり、リンクをたくさん張ったりするとこの引っ掛かりが長くなる。悪い時は数秒なんてこともある。その場合でも、ほとんどの場合、ちゃんと入力は拾えているようだが。ひと言で言えば描画プロセスに明らかに感じられるレベルの割り込みがあるということだ。

描画の遅れそのものはあまり大きな問題じゃないんだけど、その遅れが「コンシステントでない」(いい日本語が浮かばないのですが・・・感覚的にいつも同じではないという意味)ことはものすごく問題だと思う。和紙に筆でものを書くと描画が遅れる感じがあるが、慣れればまったく問題ない。しかし、その遅れがコンシステントでないことは、紙では絶対にありえない。

また、視差の問題。画面の端のほうでの視差が大きい。これも、上の方では下に、下のほうでは上に、右の方では左に、左の方では右にずれるといった感じで、一定でないのだ。

はっきり言います。私の感覚では、現状のenchantMOONではDrawingが紙と同等にできることが実現されていない。私は、なによりもまず入力と描画が完璧にコンシステントであることが実現されなければ、Drawingが紙と同等にできるとは言えないと思う。コンシステントでないものには慣れることができない。それが人間の感覚なので、現状では使い込んでもあるところ以上には使用感が向上しない。

そして、Drawingが紙と同等にできることができていない状況では、上に積み重ねるもの(オーサリング・プログラミング)に意味があるかどうか、私は疑問に思う。基礎のグラグラしたピラミッドはありえないのではないだろうか。

この問題の理由には現ハードウェアのパワー不足はあるだろう。でも、私には、enchantMOONの振る舞いに、コンセプト上もっとも大事な部分をおざなりにして、ハードウェアの能力を超えた機能拡張をしすぎているという印象を持たざるを得なかった。

建設的に行こう。現状でソフトウェアレベルで可能と思われる要望は2つある。

一つ目は紙モード。すべてのファンクションを切って、すべてのリソースを入力と描画に使うモードの実装。エンチャントコマンドも文字認識・検索もシールもエフェクトも、必要ならページ切り替えやリンクすら切ってしまい、割り込みをゼロに限りなく近くする。つまり、黒い一枚の紙になって、とにかく紙のもつUIを完璧に実現する(よう努力する)。これこそがNo UIコンセプトに必須のベースであり、本来的にはOSのデフォルト状態はそうであるべきだったと思っている。そこをベースにして少しづつ機能を重ねていく、それがすべてユーザーレベルで選択(プログラミング)可能になるのが理想。

二つ目は視差補正。画面の縁の部分で視差補正を自動的に行う。補正のゼロ中心位置と補正レベルをユーザーが指定できるとなお良い。ものを書く時、人によってどのくらいの距離でどのあたりに紙を置くか、どのくらいペンを傾けるか(これによって出る位置が違うことに気づいた)には癖があるから、カスタマイズ能は私は必要だと思う。将来はカメラで使用者の顔認識を行って目の位置を測定し、傾きセンサーでペンの角度を測定し、それらのデータを元に計算で自動的に補正するのが理想だ。Kinectができるんだから、これは既存技術で実現可能だと思う。かなりの演算パワーが必要だが。もう一つの方向性はディスプレイの構造を根本的に変えて、物理的に表示の位置を表面に近づけるよう改善すること。いちばん表面にあるシートが光を透過するようなイメージ。これらの根本的改善にはハードウェア的改善が必須だが、初めに書いた簡易補正はファームウェアとOSレベルでも、ほとんどパワーを使わずに実装できそうに思う。

どちらもOS以下の部分での実装が必要なことで、ユーザーレベルのプログラミングでなんとかできるものではない。と、言いますか、現状ではこれ以上重くしたくないというのが正直なところで、プログラミングをしてシールを貼ろうという意欲が無くなっている。これって、shi3zさんの意図するものとはかけ離れた反応だろう。

感覚面で改善できそうな細かい点もいろいろあるんだけど・・・ペン先が白でも黒でもないオレンジとかなら、書いている位置が特定しやすくてよかったかなぁ、とか、消しゴムボタンを使った後に、ペン先のアクティベートをコンマ何秒か遅らせてくれると消し際にシミを残さないように気を使わなくてていいかな、とか・・・。

enchantMOONは他にない素晴らしい部分がある。この、凄く細いパステルで書いているような独特の書き味は現状でもかなり高いレベルにあり、個人的には好きだ。そして他メーカーに絶対にありえないのがNo UIコンセプト。とにかく、そのコンセプトの実現のため、紙の偉大さに真正面から取り組んで、紙を超えて欲しい、そこから逃げないで!とエールを送りたい。私には、紙の入力感のフレキシビリティ・コンシステンシーとリッチなプログラミング環境の両立には、I/Oにハードウェア的に独立した演算パワーと、厳密で細かな割り込み管理のできるゲーム機的なカーネルが必須なように思えてならない。そして、それが実現できる可能性を感じるのはenchantMOONだけだという想いはますます強くなった。それがわかったというところで、すでにこのコンセプトモデルModel MOON01は役割を果たせているのかもしれない。

(追記)このエントリーを公開した直後にMOONPhaseがv 2.4.1にバージョンアップした。シール機能の強化が主な内容で求めている方向性と違うなぁと思っていたら、アップデート後は描画への割り込みが多少軽減されているように感じる。重い時も上手くごまかすような感じ。ページ切り替えの待ち時間は若干長くなったようだが・・・・。左右端の視差や消しゴムの使用感も多少改善された印象がある(これは気のせいかもしれない)。この調子で少しづつでもいいので、使用感の改善が進んでいって欲しい。

(追記9.1)始まったIssue Trackerにおけるissue 34の議論で、視差の問題よりももっと深刻なデジタイザのズレの不均一性があることを認識した。私の個体では、上端はOKだがそこから1~3センチぐらいのところで均一に2ミリほど下にずれる。下端では平均のズレは少ないがそのズレが一定でないためにまっすぐ横に線を引いてもまっすぐにならない。左端はかなり良好だが、右端は下端と同じような状況だ。右端は書いていって詰まることが多いため、ここの歪みは非常に不快ではある。

端のほうに顕著に出るズレだったので視差の問題だと勘違いしていた。この問題は視差とはまったく別の事象であり、対策されるべきであると思う。問題はこれがロットやもっと悪い時は個体レベルでのハードウェア的差異によって生じているものであれば、対策が難しいということだ。当面は細かいものを書くときは上下を避けて、左の方に描くようにすればいいか。

なんだか書き味についてものすごくケチをつけているように見えてしまいそうなので、もう一度書きますが・・・・enchantMOONの書き味は他にはない独特の魅力があって、感触的にもとてもいいんです。だから、いろいろ書いちゃう。だからこそ、細かいズレが残念で気になってしまう。別の言い方をすれば、enchantMOONは細かいズレがちゃんと認識できるレベルにあるということなんです。これって、こういうデジタイザにおいてはかなり画期的なことじゃないかな。たった4万円のタブレットではありえないレベルだと言っていい。もちろん、プロ用で一体一体、マニュアルでキャリブレーションをかけてあるようなものと比較したら正確性では話にならないだろうけど、書き味ではたぶん少なくてもいい勝負していると思っている。もし、この問題が個体レベルの問題で、対策としてUEIがマニュアルキャリブレーションサービスを有償で始めてくれたら、間違いなくやってもらうと思う(本体より高いようなことがなければ、だけど・・・・)。

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