« 風神は人間の傲慢さを諌めたもう オーベルストドルフ・フライング | Main | 過ぎたるは及ばざるが如し・・・・ ビケルスン フライング世界選手権 個人 »

February 22, 2012

フライング世界選手権に寄せて 絶滅危惧種となりつつある生粋のフリーガー

スキーフライングの世界記録保持者、エーベンセンが引退を発表した。同日発表されたフライング世界選手権のノルウェー代表に彼の名前はなかった。

エーベンセンがこの決断に至った理由は、表向きは膝などの度重なる故障でパフォーマンスが出せなくなったことと伝えられている。26歳という年齢は、確かに、アスリートとしては一つ目の曲がり角である。肉体的には最高を極めたという実感、そしてこれ以上続けても向上しないであろうという感覚・・・・ジャンプのような究極の物理を体に求める競技において、こういう感覚的なものがモチベーションに大きく影響することは想像できる。そして、セカンドキャリアのことを考えればこのあたりが潮時と考えるのもわかる。

しかし、エーベンセンのケースはそれとは少し違う気がしてならない。今までの自分では世界とは戦えない、しかし、それを変えたら自分の良さを消すことになる・・・・そういう袋小路に入ってしまったのではないか、と思うのである。ジャンプ競技の大きな流れの中での彼の立ち位置は消えつつあったのではないか、と。

V字ジャンプの発明以降、ジャンプ競技の歴史は技術・マテリアルの進歩による浮力の増大をレギュレーションの変更により抑えるという、いたちごっこの歴史であった。2年前のカルテンベック・アマンによるビンディングの革新は再度時代の歯車を巻き戻し、浮力を増大させた。しかし、それに対抗するべく行われたBMIレギュレーションの変更は、その効果を打ち消した。そして、どうやら、さらにジャンプ競技のアスレチック化・パワー化への方向性を明確にする結果となったようである。

エーベンセンは全ジャンパーの中でももっとも飛行曲線が低い、典型的なフリーガーであった。自らの優れた空中感覚と低いBMIを生かすため、サッツ時に上へのゲインを犠牲にしてまで前へのモーメントを殺さず、そして最終落下角度を浅くする。そうすることでランディングバーンの角度より浅い飛行曲線でヒルサイズまで行くことを目指す・・・・。

しかし、このタイプのジャンパーはBMIの上昇が致命的だ。浮力が必要なのである。かといって、人間の速筋比率は決っているから、鍛えてパワージャンパー(コフラーや原田)やスピードジャンパー(マリシュやアマン)になるというのも、トップレベルではほぼ不可能なことなのである。

クラニェッツやコッホ、あるいはロマーレンたち、もとは生粋のフリーガーだったジャンパーたちは、上へのゲインを意識するようになり、それなりに結果を出せている。おそらく、日本では岡部もこのカテゴリーに入る。一方で低い飛行曲線にこだわっていたハリオリは引退を選ぶこととなり、今で言えばハッポネンやチェコのハイェックなどが苦しんでいる。

おそらく、エーベンセン自身もそれが良くわかっていたはずだ。ノルウェーはパワー派のシュトッケルの方針があるのだろう、サマーGPから全員、上への方向性を出していた。エーベンセンも明らかに上への意識があるジャンプをしていた。

しかし・・・取り組んでみて、膝を痛めて、その方向性ではトップレベルへの道が険しいことに気づいてしまった。そして、元に戻してみたが、やはりこのBMIでは元のままでは飛べないということも明らかとなった。もしそうなのだとしたら、続けても無意味だとエーベンセンが考えるのも当然だろう。

BMIルールとは非情なルールだと思う。最も飛べるBMIはそれぞれのジャンパーにある。もし、それがルールの規定するBMIとずれていれば、自分の最大パフォーマンスを絶対出せないということになる。もちろん、トレーニングや食事などによってそれらを近づけることは可能だろう。しかし、トップレベルの勝負ではその些細に見える差が大きく結果に影響する。逆に言えば、ルールの規定するBMIに最大パフォーマンスBMIがどれだけ近いかで勝負が決まるような感覚すら覚えるかもしれない。そして、自分が今のルールに合っていないとわかったとき、ジャンパーはどうやってモチベーションを保てばいいのだろうか・・・・。

今回のフライング世界選手権は生粋のフリーガーが輝くことができる、最後の晴れ舞台になるかもしれない。いや、もしかしたら、逆にフリーガーという種に引導を渡す大会になってしまうかもしれない。そういう意味で、いまや絶滅危惧種となったハッポネンやハイェックのフライトには注目して見ていきたい。

|

« 風神は人間の傲慢さを諌めたもう オーベルストドルフ・フライング | Main | 過ぎたるは及ばざるが如し・・・・ ビケルスン フライング世界選手権 個人 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/64278/54052117

Listed below are links to weblogs that reference フライング世界選手権に寄せて 絶滅危惧種となりつつある生粋のフリーガー:

« 風神は人間の傲慢さを諌めたもう オーベルストドルフ・フライング | Main | 過ぎたるは及ばざるが如し・・・・ ビケルスン フライング世界選手権 個人 »