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January 23, 2011

人々の想いが結実した、作り物ではないドラマ ザコパネ3連戦

冬が戻ってきた。相変わらず空模様はすぐれないが、風が冷たい。一方で時折雲の切れ目からのぞく陽射しに少し春の気配を感じる。

ハラコフの代替開催を含めて、ザコパネで3連戦。高温と雨による雪不足が心配されたらしいが、寒の戻りでその心配は吹き飛んだ。改修され、完璧に整備された台にぎっしりの観客・・・話によれば、入りきれなかった客が台の外にあふれていたそうだ。木曜の予選ですら万を越す観客が入り、日曜の“追加公演”も完全に売り切れた。すべての人が、一人のジャンパーを見るために集まったのだ・・・・アダム・マリシュ。

金曜、人々の想いにザコパネの風神が応えた。マリシュに最高の向かい風。ヒルサイズを大きく超える138.5m、しかもテレマーク付で。このギリギリ飛びすぎずというところが、風神のすばらしい匙加減である。しかも、その風は後の3人には続かなかった。あまりにも出来すぎのお膳立て・・・5万人の観客、テレビの向こうの数百万の視聴者の期待・・・それを背負って飛ぶラスト・ジャンプ。さすがのマリシュも目が泳ぎ、青ざめていた。果たして、サッツでは力が入りすぎて体勢移行が急過ぎ、もうちょっとで完全に失敗するところだった・・・・が、なんとか耐えて向かい風を受けて130m付近まで伸ばした。コフラーとは1回目の差があるからなんとか残っていてくれ、と祈る観客とマリシュ。そして、掲示板に点る1の数字。大歓声に応えるマリシュからは、やれやれ、という深いため息が聞こえてくるようだった。

土曜は一転して、追い風の吹く厳しい条件となった。コンディション・コンペンセーションルールとともに競技化したジャンプの醍醐味を、渋いゲート設定とともに味わうことのできる素晴らしい試合だったと思う。マリシュに風は吹かなかったが、これも、昨日深夜まで続いたお祭りで疲れた彼を休ませようとする、みんなと風神の配慮に思えた。6位でちゃんと表彰式には呼んでね。今日はアマンの代演公演、助演はロマーレンとモルギーという感じ。アマンはアプローチで何かを掴んだようだ。昨年を髣髴とさせる、“自動的”と表現されるスムースで異常に速いサッツが戻ってきた。スキーも走っていた。一方、モルギーは安定はしているがこれ以上の上積みはないといった感じ。風もまったく当たらないし。

日曜は一回目、雪がだんだんと強くなり、10人に及ぶ“雪吹き飛ばし隊”をもってしても少しづつ飛び出し速度が落ちていくという厳しい状況だった。そしてランディングバーンには新雪が積もり、着地が難しくなっていく。その中で悲劇は起こってしまった。マリシュのジャンプは悪くなかった・・・しかし、視界が悪い中で無理をして着地を遅らせた結果、左スキーを新雪にとられて転倒・・・・ショックで静まり返る中、ティーレの「立ってくれ、アダム!Bitte stehen Sie auf, Adam!」の声だけが響く。一度は歩き出そうとしたマリシュだったが、果たせず担架に乗せられて退場・・・・・人の念とはおそろしいものだと思う。もし、5万人の念を背負っていなかったら、彼は無理をせず降りたはずだ。

そして、その人々の念は、雪が強くなる前に素晴らしいジャンプを披露してトップに立ったストッコに乗り移ることになる。2回目が始まり、雪は少し収まったが風は追う。厳しい条件に落ちていくジャンパーたち。さすがのモルギー、その中で伸ばしてトップに。一本目、当たったジャンプで7位の葛西、もう一回行け!という願いに応えて124.5m、モルギーを上回りトップに立つ。吼える彼を久しぶりに見た。一時的に吹いた向かい風を利してウアマンも続く。風の余韻の中、アマン、ちょっとタイミングが速かったか、下は風が追ったか、伸びずウアマンを上回れず。次のフロイントは追い風が当たってしまった。いいジャンプだったが・・・。追い風は収まったが、コッホはサッツで遅れ沈む。ヒルデは今季の成長を見せて、しっかりまとめてトップに立つ。そして・・・ストッコ。人々の願いを乗せたジャンプは、追い風を切り裂いた!両手を突き上げる彼を、ジャンパーを含めてすべての人々が祝福していた。

金曜日のマリシュの栄光、そして日曜の悲劇とドラマ・・・・。人々の想いが強くなればなるほど、こういうことは起こる。今日の2回目、ストッコは何かに操られて飛んでいるような感覚があったのではないだろうか。マリシュの事故でその場の人々のすべての喜び、努力、想いが無に帰そうとする時、ストッコが勝つことでしか救われる道が無かった。ストッコだけではなく、2回目に進んだすべてのジャンパーの胸にも、自分の戦いのことを脇においておいて、なんとかそういう結末にならないかという想いがあったように思う・・・・。

この3連戦は、ポーランドという国のスキージャンプの歴史におけるマイルストーンとなることだろう。ジャンプ競技の面白さが凝縮された、濃い戦いだった。もし、マリシュがこの戦いを最後に競技から去ることになったとしても(そうではないことを願うが)、彼がここで人々と共に成し遂げたものはもう消えない。この戦いは語り継がれ、ジャンプは文化のレベルに昇華することになるだろう。

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